修復に込めた想い

私達の未来の為に亡き兄がしてくれたこと

戦没者慰霊碑 施工前

戦没者慰霊碑 施工後

その慰霊碑には、薬研(やげん)彫りで、細かい文字がぎっしり彫ってあった。
この仙台石の彫刻文字は、全て手描きでペンキを入れなければならず、難しく時間もかかる。
心が折れ、お断りした方がいいのでは…と悩んだ。
 
しかし、その文章を読みすすめると、胸が熱くなった。
若干十八歳、志願兵として大東亜戦争に行き、海に沈んだ優秀な青年の功績を讃えたものだったのだ。
 
覚悟を決め、一文字ずつ丁寧に文字をなぞっていると、一人の老人が見にいらした。
この方の弟さんだそうだ。
 
兄の功績を忘れられることの無いよう読めるようにしたかったと言う。
 
「兄は、大きな船に乗り、日本に帰る途中で沈められた。
その日、母親が家の前でずぶ濡れになって立っている兄を見たんだ。
虎!帰ってきたんだね!と叫んだが、家の中には入らず、振り返るといなかったそうだ。
兄はひと目、母に会いたかったんだろう。」
と、話してくれた。
 
七十年経った今、アタシの心に虎さんの想いが染みてきた。
 
この出来事を伝えたいと思う。 
自分の子供やこの国の未来に、また虎さんのような悲しい道を歩ませないように。

【施工内容】

 
墓碑全体に繁昌したコケ、カビを丁寧に除菌洗浄。
仙台石は酸性洗剤は使えないため、慎重に作業を進める必要がある。
 
クリーニング後、彫刻文字内部に白ペンキを丁寧に入れていく。
一文字一文字噛み締めながらの作業。
 
最後に、塗膜を作らない浸透性タイプのコーティングを施工。
汚れのもととなる水分の吸収を抑制するため、末永く守っていきたい墓石や慰霊碑には必須。